「リトル・ミス・サンシャイン」〜負け犬のお話し


ブラックな笑いとほのぼのした触れあいが同居するロードムービー


自ら開発した”成功するための9段階理論”をことあるごとに振りかざし、勝者になることが幸福であると信じている父親、ミスコンで優勝することを夢みる娘のオリーヴ、毒舌でヤク中でポルノ雑誌が愛読書の祖父、ナンバー1のプルースト学者を自認しながら、職も”恋人”も奪われ、自殺未遂をしたゲイの叔父、そんな家族を冷ややかな目で見つめながら自らには沈黙の苦行を課す息子、そんな家族を必死にまとめようとする母親。
バラバラな家族が、娘が出場する”リトル・ミス・サンシャイン・コンテスト”(ちびっ子のミスコン)の会場まで、黄色いおんぼろバスで旅をする過程で、それぞれが挫折を味わい、自分たちがLoser(負け犬)であることを自覚していく。
ラストのオリーヴのミスコンのシーンに向かって、物語は進んでいくのだが、この子がまた、ド近眼でお腹がぽっこり出ていて、どう考えてもミスコンに優勝などしそうにないのである。



めったに映画を観てポロポロ涙を流したりしないオレ様だが、この映画では2回ほどきてしまった。
ひとつはエントリー時間ぎりぎりのミスコン会場に向かって家族全員が走っていくシーン。このシーンに至るまでにそれぞれが挫折を味わい、最後に娘のミスコンに懸けているかのように、懸命に走るのだ。
もうひとつはミスコンの審査でのダンスのシーン。これはネタバレになるのでくわしくは書かないが、ファンキーな祖父が振付けたダンスは見もの。


ニーチェを愛読し、物語途中まで筆談のみでコミュニケートする15歳の息子のドウェーンが、最高にカッコイイセリフを次々と吐く。
たとえば自殺未遂した叔父のフランクに「死なないで」と書いたメモを見せる。フランクがもう自殺する意志がないことを告げると、「地獄へようこそ」と書いてみせる。
ラスト近くでは、「ミスコンなんて糞だ。この社会はミスコンと同じだ」なんてシビれるセリフをキメてくれる。


観たあとに、この映画の家族はアメリカという国の縮図なんだと気付いた。
アメリカンドリームという甘い言葉とは裏腹に本当に厳しい競争社会のアメリカ。
いまの政治や社会の風潮を見ていると、日本もアメリカみたいな社会になろうとしているような気がする。


中国語でアメリカのことを美国と書くんだね。
美しい国”なんて糞だ。


☆☆☆☆☆