「パラダイス・ナウ」を観たのだ


パラダイス・ナウ」(PARADISE NOW)
 2005年 フランス/ドイツ/オランダ/パレスチナ
 監督・脚本:ハニ・アブ・アサド
 製作・脚本:ベロ・ベイアー
 出演:カイス・ネシフ、アリ・スリマン
    ルブナ・アザバル、アメル・レヘル


  ☆☆☆☆☆



パレスチナ問題を、自爆攻撃に向かう2人の若者の視点から問い直す問題作。
監督はパレスチナ人で、プロデューサーはイスラエル人。
物語はヨルダン川西岸地区の町ナブルスが舞台。
この街で生まれ育った幼なじみの2人が、自爆攻撃に向かう48時間を描いているが、パレスチナ側に対してもイスラエル側に対しても、否定も肯定もせず、淡々と描いている。


ちなみにこの映画の字幕では「自爆テロ」という言葉は使われていない。
テロという言葉には卑劣なイメージがつきまとうからだという。
この映画ではパレスチナ抵抗勢力イスラエル軍も、装備や見かけが違うだけで同じ軍隊である。という考え方なのだ。
ただし、実は欧米のメディアでも、”suicide attack”とか、”suicide bombing”などの言葉が使われていて、テロという言葉を使用しているのは、実は日本のメディアぐらいらしい。


なんといってもこの映画のスゴイところは、実際に紛争が続いているナブルスで撮影されていること。
劇中、登場人物たちの会話とは関係ないところで爆発音が聞こえてきたりするのだが、それらは本物のロケット弾の音らしい。

映画というものの素晴らしいところが観客に非日常の世界を体験させてくれることだとすると、まさにこの作品は、我々には危険すぎて行くことができない場所に連れて行ってくれる映画なのだ。


叙情性を排除するためか劇中、BGMはほとんど使用されていない。
圧巻なのはラストシーンからエンドロールまで全く無音状態なこと。
それが何ともいえない悲しみや感動の気持ちを誘うのである。
こういう映画を観ちゃうと、巷にあふれるお涙ちょうだい映画って本当に安っぽいと思ったのだった。