「実験4号」に浸ったのだ。

実験4号

実験4号



ごく一部で伝説的なロックバンド、Theピーズの「実験4号」という曲をテーマに、伊坂幸太郎山下敦弘がそれぞれ小説と映画でコラボレートした作品。
本とDVDがひとつの箱に入っており、小説の方が約90ページで、映画が約40分という長さもちょうど良いのだ。
どちらの物語も、温暖化のために地球の人口の大半が火星へ移住してしまい、過疎化した100年後の日本が舞台。
2つの作品の登場人物がところどころニアミスするシーンが登場して、連動感を出している。



伊坂幸太郎の「後藤を待ちながら」は、火星へ行ってしまったメンバーの1人をあとの2人が待ち続けるという小説。
タイトルはベケットの「ゴドーを待ちながら」の駄洒落だと思うけど、登場人物をTheピーズのメンバーとダブらせている。



山下敦弘の映画「It's a small world」は、3人しか生徒がいない小学校で、そのうちの1人が火星に旅立つまでの最後の2日間を描いている。
登場する3人の子どもたちには、Theピーズのメンバーと同じ名前の役名がつけられている。
子どもたちの会話や遊んでいるシーンの、とても役者が演技をしているとは思えないほどの異常なナチュラルさは、山下監督の真骨頂なのだ。
ただしこれまでの作品に多かった笑いの部分は抑えめで、この監督にしてはかなり温もりのある作品に仕上がっている。



文章と映像のコラボ作品というのは過去にもたくさんあるが、テーマとなっているTheピーズの曲も含めて、小説と映画と音楽がこれほど見事に連動し、なおかつちゃんとエンターテインメントとして成立している作品を、個人的には他に知らない。
実験的な試みではあるけれど(タイトルも「実験4号」だけど)、それだけでは終わっていないところが素晴らしいと思う。