新宮と中上健次
2月下旬に紀伊半島をぐるりと一周した。
熊野と新宮を見てきた。
「路地へ 中上健次の残したフィルム」
2000年日本
監督・構成:青山真治
小説・路地映像:中上健次
旅・朗読:井上紀州
紀州生まれの映像作家、井上紀州が松坂から新宮へと移動しながら、行く先々で紀州のイントネーションで小説を朗読する映像に、再開発で消えつつあった「路地」を生前の中上健次が撮影した映像を挿入したドキュメンタリー映画。
かつて「路地」があった場所をガニマタの井上氏が彷徨する。
もちろん、いまは存在しない。
そこへ突然、中上自身が撮ったいにしえの「路地」の映像がフィーチャーされる。
映像のバックには老婆の唄が流れ、やがて坂本龍一のリリカルな音楽がやさしく被さり、かつてあったであろう人の営みを感じさせ、いいようのない悲しみを誘う。
被差別部落出身の中上健次は、自身の故郷を「路地」と呼び、一貫して作品の題材にした。
オレ様の子供の頃にも、身近に「路地」が存在していた。
実際に「路地」に住む子も友達にいたし、家に遊びに行ったりもしていた。
親にはそこへあまり行くなと言われたが、なぜそんなことを言うのかわからなかった。
新宮の中上健次の生家があった場所に実際に行ってみたけれど、いまは公営住宅になっておりその痕跡は残っていない。
この映画で触れられているが、その付近にあった臥龍山という山もほとんど再開発で削られ、跡形もない。
中上健次の自筆の原稿を見た。
意外と丸文字に似た、キュートな文字だと思った。
いささか古いが、「オン・ザ・ボーダー」という中上健次のエッセイと対談をまとめた本がある。
そのなかの村上春樹との対談で、この二人に村上龍を加えた3人の育った環境と作風の関係性について話しているくだりが面白い。
熊野という地縁的なつながりが強い場所で育った中上健次と、
隣に誰が住んでいるかも知らない神戸の新興住宅地で育った村上春樹、
そして基地の街、佐世保で生まれ育った村上龍。
たしかにそういう読み方をすると、それぞれの作風に現れているなあと感じる。
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